【重要】炎症性腸疾患でのアザチオプリン併用【2つの理由】

炎症性腸疾患で使用される薬剤の一つ、アザチオプリンについて取り上げたいと思います。この記事では主に、炎症性腸疾患でアザチオプリンを使用する意義についてまとめています。

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アザチオプリンの歴史

アザチオプリン(参照:KEGG)は商品名をアザニン(田辺三菱製薬)およびイムラン(アスペンジャパン)として販売されている免疫抑制薬です。海外において、1960年代から1980年代まで、臓器移植における標準の免疫抑制として、アザチオプリンとステロイドが使用されていました。日本では、1969年に「腎移植における拒否反応の抑制」を適応に承認され、販売されました。

日本での炎症性腸疾患への適応

炎症性腸疾患に生物学的製剤が活用される以前は、5-ASA製剤(サラゾスルファピリジンやメサラジン)、ステロイド薬が主として使用されていました。しかし、ステロイド長期使用の副作用や、ステロイドに反応しない難治例、といった問題がありました。

海外では、1960年代以降、アザチオプリンの炎症性腸疾患への有効性を示す研究結果が報告されてきました(Ewe K, Press AG, Singe CC, et al., Gastroenterology. 1993; 105: 367-72., Sood A, Kaushal V, Midha V, et al., J Gastroenterol. 2002; 37: 270-4.)。日本でもこれら海外での報告を受け、2006年6月に「ステロイド依存性のクローン病の緩解導入及び緩解維持 並びにステロイド依存性の潰瘍性大腸炎の緩解維持」の適応が承認されました。

炎症性腸疾患治療におけるアザチオプリンの位置付け

潰瘍性大腸炎では、ステロイド依存性症例におけるステ ロイド減量や寛解維持に使用されます。

クローン病では、5-ASA製剤(サラゾスルファピリジンやメサラジン)やステロイド薬による寛解導入後や、腸管手術後の寛解維持に用いられます。

自分の治療はどの段階?

アザチオプリンを含め、炎症性腸疾患の治療に用いられる各薬剤は、治療指針に沿って使用されます。

「現在の治療がどの段階にあるのか」、また「次の治療の手はどのようなものがあるのか」といったことも、治療指針をみると、把握することができます。そうすることで、治療に対する不安も和らぐのではと、筆者は考えます。

炎症性腸疾患の治療指針

炎症性腸疾患の患者さんには、ぜひ、参考にしていただきたい図表があります!

難治性炎症性腸管障害に関する調査研究『潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針』です。令和3年3月31日に改訂版が公開されました。【下記ページをご参照ください】

【成人】
・潰瘍性大腸炎治療指針(p.14)、潰瘍性大腸炎フローチャート(p.15-16)
・クローン病治療指針(p.36)
【小児】
・小児潰瘍性大腸炎 治療フローチャート(p.24-25)
・小児クローン病 治療フローチャート(p.46)
【手術】
・潰瘍性大腸炎に対する主な術式(p.19)
・クローン病に対する狭窄形成術(p.39)、肛門部病変に対するSeton法の基本的な手技(p.41)

抗TNFα抗体とアザチオプリンを併用する2つの理由とは?

1. 治療効果が高い

ここでは潰瘍性大腸炎とクローン病と、それぞれに有力な臨床研究論文を引用してみていきたいと思います。

潰瘍性大腸炎

下記は、潰瘍性大腸炎患者さん239人を対象としたランダム化比較試験で、信頼性の高い研究です。インフリキシマブ/アザチオプリン併用群、インフリキシマブ単剤群、アザチオプリン単剤群の3群で比較検討しています。そして、16週目のステロイドフリー寛解率と、粘膜治癒率とを評価しています。

この報告によると、インフリキシマブ/アザチオプリン併用群は、他の群と比較して有意に高いステロイドフリー寛解率を示しました。また、インフリキシマブ/アザチオプリン併用群では、他の群より高い粘膜治癒率を示しました。

Corticosteroid-free remission at week 16 was achieved by 39.7% (31 of 78) of patients receiving infliximab/azathioprine,compared with 22.1% (17 of 77) receiving infliximab alone(P =.017) and 23.7% (18 of 76) receiving azathioprine alone(P =.032). Mucosal healing at week 16 occurred in 62.8% (49 of 78) of patients receiving infliximab/azathioprine, compared with 54.6% (42 of 77) receiving infliximab (P = .295) and 36.8% (28 of 76) receiving azathioprine (P =.001).

Panaccione R, Ghosh S, Middleton S, et al. Combination therapy with infliximab and azathioprine is superior to monotherapy with either agent in ulcerative colitis. Gastroenterology. 2014; 146: 392-400.
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クローン病

下記は、クローン病患者さん508人を対象としたランダム化比較試験で、こちらも信頼性の高い研究です。インフリキシマブ/アザチオプリン併用群、インフリキシマブ単剤群、アザチオプリン単剤群の3群で比較検討しています。そして、26週目のステロイドフリー寛解率と、粘膜治癒率とを評価しています。

この報告によると、インフリキシマブ/アザチオプリン併用群では、他の群と比較して有意に高いステロイドフリー寛解率を示しました。また、インフリキシマブ/アザチオプリン併用群では、他の群と比較して有意に高い粘膜治癒率を示しました。

Of the 169 patients receiving combination therapy, 96 (56.8%) were in corticosteroid-free clinical remission at week 26 (the primary end point), as compared with 75 of 169 patients (44.4%) receiving infliximab alone (P=0.02) and 51 of 170 patients (30.0%) receiving azathioprine alone (P<0.001 for the comparison with combination therapy and P=0.006 for the comparison with infliximab). Similar numerical trends were found at week 50. At week 26, mucosal healing had occurred in 47 of 107 patients (43.9%) receiving combination therapy, as compared with 28 of 93 patients (30.1%) receiving infliximab (P=0.06) and 18 of 109 patients (16.5%) receiving azathioprine (P<0.001 for the comparison with combination therapy and P=0.02 for the comparison with infliximab).

Colombel JF, Sandborn WJ, Reinisch W, et al. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn’s disease. N Engl J Med. 2010; 362: 1383-95.

小括

炎症性腸疾患の治療において、インフリキシマブとアザチオプリンを併用する方が、インフリキシマブ単剤やアザチオプリン単剤よりも、臨床的寛解導入効果や内視鏡的粘膜治癒効果が高いことが示されました。

2. 抗薬物抗体の出現を抑える

抗TNFα抗体の使用では、その経過で効果を減弱させる抗薬物抗体(中和抗体)が産生されることが知られています。

炎症性腸疾患に使用される抗TNFα抗体には、インフリキシマブ(レミケード®︎、参照:KEGG)、アダリムマブ(ヒュミラ®︎、参照:KEGG)、ゴリムマブ(シンポニー®︎、参照:KEGG)の3種類があります。現在のところ、ゴリムマブはクローン病への保険適応はありません。

Thomasらの報告によると、抗薬物抗体(ADABs)の産生率はそれぞれ、インフリキシマブで25.3%、アダリムマブで14.1%、ゴリムマブで3.8%とあります(Thomas SS, Borazan N, Barroso N, et al., BioDrugs. 2015; 29: 241-58.)。また、アザチオプリンなどの免疫抑制薬を併用した患者と、併用していない患者とで比較すると、併用した患者では抗薬物抗体の形成が74%抑制された、と報告しています。

A total of 68 studies (14,651 patients) matched the inclusion/exclusion criteria. Overall, the cumulative incidence of ADABs was 12.7 % [95 % confidence interval (CI) 9.5-16.7]. Of the patients using infliximab, 25.3 % (95 % CI 19.5-32.3) developed ADABs compared with 14.1 % (95 % CI 8.6-22.3) using adalimumab, 6.9 % (95 % CI 3.4-13.5) for certolizumab, 3.8 % (95 % CI 2.1-6.6) for golimumab, and 1.2 % (95 % CI 0.4-3.8) for etanercept.
The use of concomitant immunosuppressives (methotrexate, 6-mercaptopurine, azathioprine, and others) reduced the odds of ADAB formation in all patients by 74 %. The OR for risk with immunosuppressives versus without was 0.26 (95 % CI 0.21-0.32).

Thomas SS, Borazan N, Barroso N, et al. Comparative Immunogenicity of TNF Inhibitors: Impact on Clinical Efficacy and Tolerability in the Management of Autoimmune Diseases. A Systematic Review and Meta-Analysis BioDrugs. 2015; 29: 241-58.

小括

抗TNFα抗体にアザチオプリンを併用することで、抗TNFα抗体に対する抗薬物抗体の出現率を抑制することが示されました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、アザチオプリンを抗TNFα抗体に併用するメリットをお話ししました。例えば、レミケードとアザチオプリンとの併用は、臨床的にも内視鏡的にも、治療効果が高いことがわかりました。また、抗TNFα抗体とアザチオプリンとを併用することで、抗薬物抗体(中和抗体)の産生を抑制できることがわかりました。これらの有効性から、最近では、アザチオプリンは抗TNFα抗体に併用して使用されることが多くなってきています。

次回は、アザチオプリンの作用と免疫抑制の機序についてみていきたいと思います。ではまた。

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