【朗報】便中カルプロテクチンの活用【クローン病への適応拡大】

前回の記事では、便中カルプロテクチンが、1990年台の海外での研究に始まり、30年近くたってようやく日本でも臨床で活用され始めた流れをお話ししました。今回の記事では、便中カルプロテクチンが、臨床においてどのように活用されるのか、また患者さんへの恩恵はあるのか、についてお話ししたいと思います。

スポンサーリンク

はじめに

まず、過敏性腸症候群と炎症性腸疾患の違い、便中カルプロテクチンについて簡単に記載したいと思います。

過敏性腸症候群と炎症性腸疾患

過敏性腸症候群は、消化器症状をみとめるものの、腸に炎症や潰瘍などの器質的病変を伴わないものとされます。過敏性腸症候群は日本人の集団において、13.5%にみられたと報告されており(Kubo M, Fujiwara Y, Shiba M, et al., Neurogastroenterol Motil. 2011; 23: 249-54.)、頻度の高い疾患です。

若年で消化器症状が長く続く場合は、過敏性腸症候群と炎症性腸疾患との鑑別が問題となります。例えば、発熱や血便、体重減少などの異常、血液検査での炎症所見や貧血などがみられた際には、炎症性腸疾患が強く疑われます。その際は診断のため、大腸内視鏡検査を受けることになります(参照:日本消化器病学会ガイドライン)。炎症性腸疾患であれば腸管に炎症や潰瘍がみられ、過敏性腸症候群であれば腸管の異常は認めません。

便中カルプロテクチンについて

前回の記事のおさらいになりますが、便中カルプロテクチンは腸管粘膜の炎症があり、便中への好中球排泄があると、上昇してくるタンパク質です。炎症性腸疾患では粘膜の炎症を反映して便中カルプロテクチンが高値となり、過敏性腸症候群では粘膜の炎症は認めず低値となります。この検査の適応は、「炎症性腸疾患の診断補助」と「潰瘍性大腸炎の病勢把握」です。

炎症性腸疾患の診断補助での活用

この便中カルプロテクチンですが、炎症性腸疾患の診断補助に用いる場合、次のようなただし書きがあります。「下痢、腹痛や体重減少などの症状が3月以上持続する患者であって、肉眼的血便が認められない患者において、慢性的な炎症性腸疾患が疑われる場合の内視鏡前の補助検査として実施すること」。

つまり、炎症性腸疾患を疑う患者さんで、大腸内視鏡検査を受ける前の補助として活用してください、ということです。この「補助」という言葉がわかりにくいのですが、「炎症性腸疾患の確定診断は大腸内視鏡検査に基づくものであり、便中カルプロテクチンでは診断はできない」ことを意図しているのだろうと思います。

患者さんへの恩恵

患者さんにとってどのような場合に恩恵があるのでしょう。例えば、3ヶ月以上にわたって下痢や腹痛を繰り返し、炎症性腸疾患も疑われるが、過敏性腸症候群の可能性が高い場合でしょうか。便中カルプロテクチンを検査してみたところ低値で、腸管炎症は否定的と考えられるなら、大腸内視鏡検査を受けずに済むのかもしれませんね。

スポンサーリンク

潰瘍性大腸炎の病勢把握での活用

便中カルプロテクチンレベルは、炎症性腸疾患の内視鏡的な粘膜活動性と有意に相関することが報告されています(D’Haens G, Ferrante M, Vermeire S, et al., Inflamm Bowel Dis. 2012; 18: 2218-24., Schoepfer AM, Beglinger C, Straumann A, et al., Inflamm Bowel Dis. 2013; 19: 332-41.)。

また、潰瘍性大腸炎患者さんで、便中カルプロテクチン値を基準に治療強化を行ったところ、再燃率が低下したことが報告されています(Lasson A, Öhman L, Stotzer PO, et al., United European Gastroenterol J. 2015; 3: 72-9.)。

これらの報告から、潰瘍性大腸炎の便中カルプロテクチン値は、内視鏡的な粘膜の状態を、非侵襲的に判断することに活用されています。

患者さんへの恩恵

潰瘍性大腸炎患者さんにおいては、便中カルプロテクチン値をみながら、現在の治療を継続するのか、もしくは強化するのかを選択する事が可能となりました。例えば、便中カルプロテクチン値が低ければ現在の治療を継続して良いでしょうし、便中カルプロテクチン値が高くなってくれば治療の強化や変更を考える必要があるでしょう。

また、便中カルプロテクチン検査で腸管粘膜の炎症に関する情報を補うことで、大腸内視鏡検査を受ける頻度を減らすことができるかもしれません。

クローン病の病性把握での活用

残念ながら2021年4月現在、日本においては、便中カルプロテクチンはクローン病には保険未承認です。しかし、朗報です!「クローン病の病態把握の補助」への保険適応が進められていることがわかりました。

サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ(グループ本社:東京都港区、代表:室田博夫、以下サーモフィッシャー)は、便中カルプロテクチン検査試薬「エリア カルプロテクチン2(以下、本製品)」に関するクローン病の病態把握補助の追加について、2021年1月26日(火)付で厚生労働省より医薬品製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことをお知らせします。今後は本製品の、クローン病の病態把握の補助における早期の保険適用に向けた準備を進めてまいります。

Thermo Fisher Scientific

潰瘍性大腸炎への適応は「病勢把握」でしたが、クローン病では「病態把握の補助」のようです。「補助」ということで、少し弱い印象を受けます。これまでの臨床研究結果で、便中カルプロテクチンの感度・特異度が、クローン病では潰瘍性大腸炎より劣っていたのもあるのでしょうか。

2021年内の保険適応もあると思われます。筆者もいちクローン病患者として期待しています!

まとめ

いかがでしたでしょうか。現在のところ、潰瘍性大腸炎患者さんの治療においては、便中カルプロテクチンは有用だろうという印象を受けました。クローン病へも、早ければ2021年内の適応拡大が期待されます。大腸内視鏡検査は今後も必要であることに変わりはありませんが、患者の立場としては受ける回数が減れば良いな、と思います。今後の動向に注目です。ではまた。

スポンサーリンク
error: Content is protected !!