前回の記事では、アザチオプリンと抗TNFα抗体とを併用するメリットについてお話ししました。この記事では、アザチオプリンの作用と免疫抑制の機序について、詳しくみていきたいと思います。
アザチオプリンの代謝産物と作用
アザチオプリンは、体内で6-メルカプトプリン(6-MP)に分解されます。この6-メルカプトプリンは、細胞内に取り込まれるとチオイノシン酸(6-TIMP)を経て、6-チオグアニンヌクレオチド(6-TGN)に変換されます。この6-TGNは、6-TGMP、6-TGDP、6-TGTPを総称します。また、6-TGDPは還元を受け6-TdGDPを生じ、さらに6-TdGTPへと変換されます。
最終的な代謝産物である6-TGTPと6-TdGTPとが作用を発揮します。
DNAやRNAへの影響とアポトーシス
DNAやRNAには、それぞれ基質(材料)としてdGTPとGTPとが利用されます。アザチオプリンの代謝で生じた6-TdGMPや6-TGMPは、これらdGTPとGTPと構造が類似するため、誤ってDNAやRNAに取り込まれます。
入り込んだ6-TdGMPや6-TGMPが邪魔をすることで、DNA複製やRNA転写が阻害され、細胞はアポトーシス(プログラムされた細胞死)に至ります(Matsuoka K., Intest Res. 2020; 18: 275–281.)。
小括
アザチオプリンによる免疫抑制作用
アザチオプリンが細胞のアポトーシスを引き起こすことはわかりました。では、細胞のアポトーシスが、どのように免疫抑制と繋がるのでしょうか。
アザチオプリン(アザニン®︎)のインタビューフォームには、下記のように記載があります。しかし残念ながら、引用文献など、その根拠を示す記載はみられません。
アザチオプリンの代謝・変換により生成されたチオイノシン酸は核酸合成を阻害する働きを持ち,芽球化リンパ球の DNA/RNA 合成系が阻害され,免疫応答反応に伴うリンパ球の芽球化とクローンの増殖が阻止される。
田辺三菱製薬 アザニン®︎錠50mg 医薬品インタビューフォーム p.6
示された免疫抑制の機序
Tiedaらは、アザチオプリンとその代謝産物が、末梢血の活性化CD4+T細胞のアポトーシスを誘導することを発見しました。また、この アポトーシスの誘導にはCD28との共刺激が必要であり、Rac1への6-TGTPの結合によりRac1活性化が遮断されることによって媒介されることを示しました。
We found that azathioprine and its metabolites induced apoptosis of T cells from patients with Crohn disease and control patients. Apoptosis induction required costimulation with CD28 and was mediated by specific blockade of Rac1 activation through binding of azathioprine-generated 6-thioguanine triphosphate (6-Thio-GTP) to Rac1 instead of GTP.
Tiede I, Fritz G, Strand S, et al. CD28-dependent Rac1 activation is the molecular target of azathioprine in primary human CD4+ T lymphocytes. J Clin Invest. 2003; 111: 1133-45.
CD4+T細胞とは
末梢血中の白血球は、顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球)、リンパ球、単球に分類されます。そして、リンパ球は、B細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。
リンパ球であるT細胞はさらに、細胞表面にCD4+を表出しているものと、CD8+を表出しているものとに分けられます。CD4+細胞は主に他の細胞の免疫応答を助けるヘルパーT細胞として、CD8+細胞は主に細胞障害作用をもつキラーT細胞として働きます。
アザチオプリンの炎症性腸疾患への効果
炎症性腸疾患では、T細胞が正常にアポトーシスを起こさず、T細胞の異常な蓄積が生じ、慢性的に腸管粘膜の炎症が続くことがわかっています(Neurath MF, Finotto S, Fuss I, et al., Trends Immunol. 2001; 22: 21-6.)。Tiedaらは、炎症性腸疾患におけるアザチオプリンの優れた治療効果は、腸管局所のT細胞にアポトーシスを誘導することによる可能性を考察しています(Tiede I, Fritz G, Strand S, et al., J Clin Invest. 2003; 111: 1133-45.)。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事では、アザチオプリンの作用と免疫抑制の機序についてお話ししました。アザチオプリンは1960年代から使用されているものの、まだまだわかっていないことが多い薬剤、という印象を持ちました。次回の記事では、アザチオプリンの副作用である白血球減少症についてまとめたいと思います。ではまた。
リンク
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