【IBD】アザチオプリンと肝脾T細胞リンパ腫【致死的】

前回の記事では、アザチオプリンの投与に際して、重篤な副作用が出やすいかどうかを検査するNUDT15キットが保険適応になったことをお話ししました。この記事では、アザチオプリン使用でみられる肝脾T細胞リンパ腫についてお話ししたいと思います。

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肝脾T細胞リンパ腫とは

肝脾T細胞リンパ腫は、稀な末消性T細胞リンパ腫です。このリンパ腫は、炎症性腸疾患患者さんへの治療と関連するといわれています。5年生存率は7%と報告され(Vose J, Armitage J, Weisenburger D, et al., J Clin Oncol. 2008 ; 26: 4124-30.)、悪性度は高く、発症すると致命的なリンパ腫です。

35歳未満の男性へのアザチオプリン投与はリスク(2011年の報告)

炎症性腸疾患患者で、肝脾T細胞リンパ腫を発症した36人の解析結果が報告されています(Kotlyar DS, Osterman MT, Diamond RH, et al., Clin Gastroenterol Hepatol. 2011 ; 9: 36-41.e1.)。

報告内容

20人(平均年齢27歳、19人が男性)がインフリキシマブ(レミケード®︎)とアザチオプリン(もしくはメルカプトプリン)による治療、16人(平均年齢24.2歳、10人が男性)がアザチオプリン単独での治療を受けていました。それぞれ、アザチオプリンへの投与開始から肝脾T細胞リンパ腫発症までの期間の中央値は、5.5年と6年でした。

分かったこと

★炎症性腸疾患患者で、男性・35歳未満・アザチオプリンの長期治療は、肝脾T細胞リンパ腫発症のリスクと考えられます。

肝脾T細胞リンパ腫の発症の絶対リスク(2011年の報告)

Kotlyar DSらが論文報告した2011年当時(Kotlyar DS, Osterman MT, Diamond RH, et al., Clin Gastroenterol Hepatol. 2011 ; 9: 36-41.e1.)、世界でおよそ417,000人が、炎症性腸疾患に対してレミケード治療を受けていました。そのうち19人が、レミケードとアザチオプリンとの治療を受け、肝脾T細胞リンパ腫を発症したことになります(1人はレミケード以外の生物学的製剤の使用歴あり除外)。

レミケード治療を受ける全ての人が、アザチオプリンの治療を受けるわけではありません。ですので、レミケードとアザチオプリンとの治療を受け、肝脾T細胞リンパ腫を発症する絶対リスクは、>19/417,000、つまり>1/21,947と想定されます。

分かったこと

★肝脾T細胞リンパ腫の発症は、炎症性腸疾患患者でレミケード治療を受ける50-70%がアザチオプリン併用歴があると仮定すると、併用治療を受けている患者のおよそ1〜1.5万人に1人の割合で発症することになります。
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アザチオプリン曝露がリスクである裏付け(2020年の報告)

抗TNFα抗体で治療している炎症性腸疾患患者で、肝脾T細胞リンパ腫を発症した62人の解析結果が報告されています(Shah ED, Coburn ES, Nayyar A, et al., Aliment Pharmacol Ther. 2020; 51: 527-533.)。

57人はインフリキシマブ(レミケード®︎)を平均3.5年使用していました。また、14人はアダリムマブ(ヒュミラ®︎)を平均1.4年使用していましたが、うち11人は以前にレミケードを使用していました。他の抗TNFα抗体の投与例も、一部にみられました。

報告内容

この62人の年齢の中央値は28歳、83.6%が男性で、84.7%がクローン病患者でした。このうち、57人(91.9%)がアザチオプリン(もしくはメルカプトプリン)の治療を受けていました。5例はアザチオプリンの投与歴はありませんでした。アザチオプリン投与開始から肝脾T細胞リンパ腫発症までの期間の中央値は5.3年でした。

アザチオプリンの投与を受けた57例のうち、5例はアザチオプリンの投与期間が2年未満でしたが、他の全ての症例は発症までに少なくともアザチオプリンが2年間投与されていました。

転機が明らかになっている49例のうち43人(87.8%)は、肝脾T細胞リンパ腫の発症後、生存期間中央値5ヶ月間で死亡しています。

分かったこと

★これまでの報告と同様に、抗TNFα抗体による治療を受けている炎症性腸疾患患者で、肝脾T細胞リンパ腫を発症した症例では、ほぼ全例でアザチオプリンの投与歴がみられました。
★抗TNFα抗体を開始する全ての患者は、肝脾T細胞リンパ腫の発症リスクの説明を受ける必要があります。また、特に若い男性集団への抗TNFα抗体投与の利益とリスクに関して、継続して注意を払う必要があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。肝脾T細胞リンパ腫は稀な疾患ではありますが、若い男性で抗TNFα抗体の治療を受け、さらにアザチオプリンを2年間以上使用していると、発症リスクが高くなるようです。以前に、レミケードにアザチオプリンを併用する方が効果が高いとお話ししましたが、肝脾T細胞リンパ腫のリスクを聞くと、雲行きが怪しくなりますね。必ず抗TNFα抗体やアザチオプリンの導入前には、主治医先生と相談した方がいいと思われます。

筆者の体験

筆者は、レミケード導入の前日に、アザチオプリンを併用するか主治医先生から説明を受けました。そこで、肝脾T細胞リンパ腫の話も聞きました。稀ではあるが発症すると治らないと聞きました。筆者は医師ですが、この疾患のことは名前も知らず、正直、どうしたらいいかわかりませんでした。ただ、主治医先生がクローン病治療の経験が豊富であることを承知しており、信頼度は高く、筆者は使用することを決めました。以後、数ヶ月は使用していたのですが、現在は諸事情により一旦中止しています。

アザチオプリンに関しては他にも記事がありますので、ぜひ下記リンクをご参照ください。ではまた。

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