2021年4月も2週目に入りました。今週から学校の新学期や、新入社員の研修が始まったところも多いのではないでしょうか。また、転勤や転属などで、新たな職場環境で4月を迎える方もおられることと思います。
そんな時期だからこそ紹介したい漢方薬があります!
春は精神的な不調をおこしやすい
4月は草木が芽吹くように、私たち人間にも精神的な変化がみられる時期です。漢方の概念では、春は「肝」の季節といわれます。この「肝」は臓器の肝臓とは異なり、あくまで概念的なものです。「肝」は気の流れをコントロールするとされ、「肝」の不調は精神的な問題を起こしやすいといわれます。
新型コロナウイルスの影響がなければ、新入生や新入社員の歓迎パーティーをしている頃でしょう。残念ながら今年はそういったパーティーをおこなうのは難しそうですね。新しい環境でなかなか周りとのコミュニケーションがとれず、ストレスをかかえやすい状況だろうと思います。
イライラやうつうつは要注意!
みなさんもストレスは適度がいいもので、過度にかかると具合が悪くなる、といった経験ありますよね?漢方の概念では、過度のストレスは「肝」を傷つけます。「肝」のはたらきが低下すると、気のめぐりが悪くなり、精神的な問題を引きおこすのです。結果、イライラと怒りやすかったり、興奮して眠れなかったり、逆に、うつうつとしたり、ため息をついたり、といった症状があらわれます。
おすすめの漢方薬「抑肝散」
春の「肝」の異常には、「抑肝散(ヨクカンサン)」がおすすめです。この「抑肝散」は、1550年に中国の小児治療の専門書として書かれた『保嬰金鏡録(ほえいきんきょうろく)』にレシピのある漢方薬になります。ちなみに、1550年というと日本では戦国時代ですね。それほど古くから伝えられ、今日の臨床でも活躍している漢方薬なのです。
日本の江戸時代の名医である和田東郭先生(1744-1803、参照:漢方医人列伝)の記録を紹介したいと思います。先生の書籍の一つ、『蕉窓雑話(しょうそうざつわ)』に「抑肝散」について述べられています。
抑肝散は、「亢ぶる」ものに対して「抑える」という意味である。したがってその症は、目が冴えて寝られない、あるいは性急で怒りっぽいなどであって、配合される生薬も肝気を疎する効果があるので、「抑肝」ということになるのである。
和田東郭『蕉窓雑話』
つまり、「抑肝散」は「肝」の不調による症状にうってつけの漢方薬なのです。
「抑肝散」の構成生薬
「抑肝散」は蒼朮、茯苓、当帰、釣藤鈎、川芎、柴胡、甘草の7つの生薬からなります(ツムラ、参照KEGG)。生薬それぞれに役割があるのですが、ここでは柴胡(サイコ)と釣藤鈎(チョウトウコウ)について詳しくみてみたいと思います。
生薬の「柴胡」は、セリ科の植物のミシマサイコの根になります(参照:東京生薬協会、熊本大学薬学部薬草園、Kampo view)。このミシマの名前は、静岡県の三島で栽培されたものが特に良質だったことに由来します。主要成分はサイコサポニンで、鎮痛・鎮静や抗炎症、解熱の効果を持つとされます。漢方では、柴胡は「肝」の不調をおさめ、気の流れをよくする生薬として配合されています。
また、生薬の「釣藤鈎」ですが、アカネ科のカギカズラのとげになります(参照:東京生薬協会、熊本大学薬学部薬草園、Kampo view)。このカギカズラのカギは「カギ状のとげ」を意味します。鈎もカギの意味ですね。主要成分はリンコフィリンで、血管拡張作用があります。漢方では、釣藤鈎は興奮をしずめる生薬として、頭痛やのぼせ、興奮などを治療する漢方薬に配合されています。
実際の生薬の写真を載せておきます。写真にある「抑肝散加陳皮半夏」は「抑肝散」の兄弟処方です。こちらは、別の機会にお話ししたいと思います。
まとめ
さて、ここまで春の精神的な不調に「抑肝散」がおすすめ、というお話をしてきました。もし、怒りっぽくなったとか、うつうつとしてため息をつくようになったとかの気づきがあれば、それは「肝」の不調のサインです。
新しい環境というものは誰しもストレスを感じるものです。ストレスの感じ方や、ストレスへの反応は人それぞれですが、「ストレスを感じていることを自覚できない人」は要注意です。知らず知らずのうちに精神は疲労している可能性があります。新しい環境だからこそ、自分の状態にも関心をもって、「ちょっとやりすぎてるな、頑張りすぎているな、少し休んだほうがいいな」と気づくことが大事だと思います。
・イライラと怒りやすかったり、興奮して眠れなかったり、逆に、うつうつとしたり、ため息をついたり、といった症状に
漢方薬シリーズは他にも記事がありますのでぜひあわせてご覧ください(参照:病気や漢方)。