【処方は漢方薬】ストレスからくる胃の痛みに【試したい○○散】

今日は漢方薬シリーズでお話ししたいと思います。筆者が「よく効くな!」と思う漢方薬の一つです。みなさん「安中散」という漢方薬をご存知でしょうか。

この記事の概要を、簡単に記載します。「安中散」は主に、胃薬として使用されます。この安中散の古典をたどり、江戸時代での使われ方にふれ、そして現代社会への応用について、順にみていきたいと思います。

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安中散を読み解く

名前の由来は「中」を「安」らかにするという意味です。「中」はお腹や胃腸を指します。ですから、「安中散」はお腹を整える意味をもつ処方です。

古典をたどる、いつできた処方なの?

「安中散」は中国、宋の大観年間(1107-1110年)に陳師文らが著した処方集、『和剤局方(わざいきょくほう)』に記載されています。今からおよそ900年ほど前には、できていた処方になります。日本は平安時代ですね。この『和剤局方』は、平安時代の終わりに日本に伝わってきた、と言われています。

下記が、安中散の条文になります。

遠年日近、脾疼反胃、口ニ酸水ヲ吐シ、寒邪ノ気内ニ留滞シ、停積消エズ、胸膈脹満、腹脇ヲ攻刺シ、悪心嘔逆、面黄肌痩、四肢倦怠スルヲ治ス。又婦人血気刺痛、小腹ヨリ腰ニ連リ、攻疰重痛スルヲ治ス、並ニ能ク之ヲ治ス。

『和剤局方』一切気門

江戸時代の名医の記録、どんな人に効果があるの?

漢文では読みづらいので、江戸時代の名医、浅田宗伯先生(1815-1894)の著書から引用したいと思います。浅田先生は、徳川将軍家や宮内省おかかえの医師でした。また、浅田飴のルーツとなる処方を考えだした先生でもあります(参照:浅田飴)。

著書の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』に、安中散の使用目標が解説されており、当時の使われ方を知ることができます。ちなみに、この『勿誤薬室方函口訣』ですが、WEBでデジタルアーカイブを読むことができます(参照:京都大学貴重資料デジタルアーカイブ)。下記が、安中散の条文になります。

世上、安中散は癖嚢(へきのう)の主薬としているが、吐水の甚しいものには効かず、痛みの甚しいものを主とする。反胃(ほんい)に用いる場合にも腹痛を目的とすべきである。また婦人の血気刺痛(けっきしつう)には、癖嚢よりかえって効果がある。

浅田宗伯『勿誤薬室方函口訣』

この条文によると、安中散は、癖嚢、いわゆる胃通過障害(胃拡張や幽門狭窄など)による嘔吐の、代表的な治療薬であったようです。特に、胃の痛みが強いものに良いと書かれています。反胃、つまり胃の病による嘔吐症にも、痛みを目標として用いるとあります。また、婦人科疾患による痛みにも効果がある、と記載されています。


『勿誤薬室方函口訣』(京都大学附属図書館所蔵)

小括

安中散
・いつできた?→1107-1110年に中国で編纂された処方集『和剤局方』に記載あり
・使用目標は?→胃の痛みに効果あり、また婦人科疾患による痛みにも効果あり

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安中散の構成生薬

「安中散」は、桂皮(ケイヒ)、延胡索(エンゴサク)、牡蠣(ボレイ)、茴香(ウイキョウ)、縮砂(シュクシャ)、甘草(カンゾウ)、良姜(リョウキョウ)の7つの生薬からなります。今回はこの7つの生薬の中から、延胡索、牡蠣、茴香についてみてみたいと思います。

生薬の「延胡索」は、ケシ科のエンゴサクの塊茎を、湯通ししたものです(参照:東京生薬協会熊本大学薬学部薬草園Kampo view)。成分にアルカロイドを含み、鎮痙や鎮痛、胃酸分泌抑制、抗消化性潰瘍の作用を持ちます。漢方では、胃痛に対して用いられるほか、月経痛にも用いられます。

生薬の「牡蠣」は、イタボガキ科のカキの貝殻です(参照:Kampo view)。主要成分は炭酸カルシウム(CaCO3)で、制酸作用が知られています。この炭酸カルシウムはアルカリ性物質で、過剰に分泌された胃酸と中和して制酸作用を発揮します。漢方では、胃痛に対して用いられるほか、神経過敏や精神不安、不眠などに対しても用いられます。

生薬の「茴香」は、セリ科のウイキョウの果実です(参照:東京生薬協会熊本大学薬学部薬草園Kampo view)。この茴香ですが、人類史上最も古い作物の一つだそうです。フェンネルとしても知られ、古くから香辛料として使用されてきました。主な薬効としては抗消化性潰瘍、気道液分泌亢進作用などがあります。漢方では胃腸薬や去痰薬に配合されます。

小括

安中散の構成生薬とその働き
・桂皮や茴香→香りが良く、気をめぐらせる
・延胡索→痛みを抑える
・牡蠣→胃酸を抑える
・良姜や縮砂→ショウガ科で、胃の調子を整える

現代社会への応用

ストレス社会

現代社会はなんといっても“ストレス社会”と言われます。では、なぜストレス社会なのでしょうか?気になったので調べてみました。下記は厚生労働省のホームページからの引用です。

個人をとりまく外界が変化すると、それまでと違ったやり方で新たに対応することが要求される。このような外界の変化はストレスと呼ばれ、さまざまな面で変動の多い現代は、ストレスの多い時代であるといえる。外界に起きた変化に適応しようとして内部にストレス反応とよばれる緊張状態が誘起される。これは、誰にでも起こることであり、いろいろな障害から身を守るなど、課題に挑戦する際に必要な反応である。ストレスの影響を強く受けるかどうかには個人差があるが、過度のストレスが続くと、精神的な健康や身体的な健康に影響を及ぼすことになる。

厚生労働省「休養・こころの健康

なるほど!現代社会は変化や変動が激しいゆえ、個人は適応を繰り返さざるおえず、ストレスを生んでいるということですね。スッキリしました。

安中散の活用

新生活や新環境、仕事や人間関係で悩み、ストレスがたまることって多いですよね。安中散は「ストレスがかかると胃が痛くなる人」におすすめです。なぜなら、桂皮や茴香といった気をめぐらせる生薬を配合した胃薬で、ストレスを緩和しながら、胃炎をおさめる効果が期待できるからです。ちなみに、安中散(医療用)の効能・効果には、「神経性胃炎」と記載されています(ツムラ、参照:KEGG)。

また、市販薬では「大正漢方胃腸薬」は有名です。製品ページでは、ストレスにも触れられています(参照:大正製薬)。この大正漢方胃腸薬は、安中散が基本となった薬になっています。

他にも、“ストレスが胃に来たら”という強烈なキャッチフレーズで「太田漢方胃腸薬Ⅱ」が販売されています(参照:太田胃散)。この太田漢方胃腸薬Ⅱも安中散が基本となっています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は「安中散」という漢方薬についてまとめてみました。現代社会におけるストレス性胃炎とくれば、安中散を試してみてはいかがでしょうか。ちなみに、漢方薬は病院で処方してもらうことをお勧めします。安全面もありますが、値段の上でも保険適応を受ける方がメリットは大きいといえます。

リンク

お近くの漢方専門医へ相談してみてください(参照:検索可⇨日本東洋医学会、漢方専門医検索
漢方薬シリーズは他にも記事がありますのでぜひあわせてご覧ください(参照:病気や漢方

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