【漢方薬】1800年前のレシピで腸の動きが改善【幻のスープ?】

今日は「腸」と漢方薬のお話をしたいと思います。今日の主役はなんと言っても「大建中湯」という漢方薬です。二回ほどに記事を分けて「大建中湯」について記載したいと思います。今回は、大建中湯の構成生薬から、腸の機能を改善させる働き、について考えてみたいと思います。

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大建中湯って?

みなさん一度は耳にしたことがあるでしょうか。この大建中湯は日常臨床において、術後の消化管運動の改善、便秘症の改善、過敏性腸症候群の症状の改善など、幅広く「腸」の機能を改善させる目的で使用されています。潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんでも、内服されている方がおられると思います。

適応症

・腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの(ツムラ、参照:KEGG
・腹壁胃腸弛緩し、腹中に冷感を覚え、嘔吐、腹部膨満感があり、腸のぜん動亢進とともに、腹痛の甚だしいもの(胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛)(コタロー、参照:KEGG

大建中湯はいつできたの?

大建中湯のレシピは200年頃(中国後漢末期)に書かれた『金匱要略』という書物に記載されています。今からおおよそ1800年以上も前に使われていたレシピですが、現在の医療においても活躍しているとは驚きです。大建中湯の名前の由来ですが、「中」は消化管機能をさし、「建中」とはお腹の調子を建てなおす意味がある、と言われています。

大建中湯の構成生薬

大建中湯のレシピですが、人参(ニンジン)、乾姜(カンキョウ)、山椒(サンショウ)、膠飴(コウイ)の4つの生薬からなります。これらの生薬をお鍋で煮詰め、その薬液を濾して抽出したものが漢方薬です。生薬を煮込んだスープのようなものですね。医療用漢方製剤として販売されているものは、この抽出した薬液を乾燥させて粉末状にしたものになります(参照:ツムラ「品質管理・製造」)。

それぞれの生薬について、みていきたいと思います。

人参

まず人参ですが、これはウコギ科のオタネニンジンの根を用います(参照:東京生薬協会熊本大学薬学部薬草園Kmpo view)。朝鮮人参や高麗人参とも呼ばれます。朝鮮人参と聞くととてもお高いものというイメージではないでしょうか?実際、種を植えてから根を収穫するまでは、4〜5年もかかるため、大変貴重で高価なものになります。

薬効としては、胃腸の機能を高めて、体を元気にする作用があるとされます。ちなみに、野菜としてサラダなどで食べている人参はセリ科のニンジンで、科が異なり、全くの別物です。ニンジンは安いですよね、騙されないようにしてください(笑)。

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乾姜

乾姜ですが、これはショウガの根茎を湯通し、もしくは蒸して加工したものになります(参照:東京生薬協会熊本大学薬学部薬草園Kampo view)。こちらは食用として食べるショウガと同じものです。漢方生薬としては、生で用いる場合の「生姜」と、加熱加工して用いる場合の「乾姜」とがあります。ショウガは生では健胃作用が強く、加熱するとショウガオールという成分が増加し、温める作用が強くなることが分かっています。大建中湯で用いられるショウガは「乾姜」ですから、温める効果を期待して配合されていることがわかります。

山椒

山椒は香辛料として広く食用に使われるサンショウと同じものです。漢方生薬としては、サンショウの熟した赤褐色の果実から、黒色の種を取り除いた果皮のみを用います(参照:東京生薬協会熊本大学薬学部薬草園Kampo view)。また、食用では、果皮をすりつぶして粉末とし、うなぎの蒲焼の臭味消しや、七味唐辛子の材料として用いられます。サンショウの特徴はなんと言ってもその辛味と舌が痺れることですよね。これはサンショウの主要成分であるサンショオールによる辛味で、舌が痺れるのは局所麻酔作用を持つためです。「山椒」はお腹を温めたて痛みを抑え、胃腸の機能を改善する作用があります。

膠飴

最後に膠飴です。これは植物のデンプンを糖化したものです(参照:東京生薬協会Kampo view)。原料としては、トウモロコシ(参照:熊本大学薬学部薬草園)やジャガイモ(参照:熊本大学薬学部薬草園)、イネ(参照:熊本大学薬学部薬草園)、キャッサバ、サツマイモが用いられます。「膠飴」の主成分はマルトース(ブドウ糖+ブドウ糖)です。このマルトースは麦芽糖とも呼ばれ、砂糖(果糖+ブドウ糖)の普及する以前に、お菓子や甘味料に使用されていました。この「膠飴」は、胃腸の調子を整えたり、栄養を補う作用があります。

大建中湯
・人参…胃腸の機能を高めて、体を元気にする作用
・乾姜…温める作用
・山椒…お腹を温めたて痛みを抑え、胃腸の機能を改善する作用
・膠飴…胃腸の調子を整えたり、栄養を補う作用

まとめ

このように、「大建中湯」は誰もがよく知る4つの生薬からなる漢方薬で、それぞれの生薬が持つ薬効から、「お腹を温めて痛みを抑え、胃腸の調子を整える効果」を持つことが理解できると思います。今回は、大建中湯の構成生薬から、その作用について考えてみました。次の記事では、「大建中湯の研究で示されている効果」についてまとめてみたいと思います。

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