IBD患者さんと健康な方とQOLはどう違う?【統計学的理解】

炎症性腸疾患(IBD)であることは、健康な方と、どう違うのでしょうか?

「しんどいって思うけれど、これって自分だけ?」
「気持ちの問題?」
「気のせいかな?」
など、自分自身の状態がよくわからないことってありませんか?

今日ご紹介したいのは、IBD患者さんにおけるライフスタイルとQOL(生活の質)を、一般の健康な方と比較した論文です。

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前置き

今日紹介するご論文ですが、Oxford University Press (OUP)が発行しているEuropean Crohn’s and Colitis Organisation (ECCO)に掲載されている論文です。

クリエイティブコモンズ・表示(CC BY)がなく、許可なしに図表を引用することができません。

現時点では文章での紹介に留めておきます。

研究の概要

岩手医科大学の研究で、2015年に発表された論文、「Internet-orientated Assessment of QOL and Actual Treatment Status in Japanese Patients with Inflammatory Bowel Disease:The 3I survey」を紹介します(Matsumoto T, Yanai S, Toya Y, et al., J Crohns Colitis. 2015; 9: 477-82.)。

研究デザイン:インターネットWebシステムを利用した質問票調査

患者:2014年2月7日から11日までの期間にWEB調査を行った、日本のIBD患者さん240人を対象
(クローン病患者さん120人、潰瘍性大腸炎患者さん120人)

目的:日本人のIBD患者さんと健康な方とで、ライフスタイルとQOLに違いがあるか比較することを目的としている

曝露クローン病(CD)患者さん120人と、潰瘍性大腸炎(UC)患者さん120人とを、

対照健康な方(HCs)240人と比較して、

帰結:ライフスタイルとQOLと、それぞれに違いがあるかを検討している

質問票の内容

  1. ライフスタイル評価… 年齢、性別、結婚歴、喫煙、収入
  2. QOL評価… SF-8

SF-8について

SF-8は、健康に関するQOLを測定する尺度です。

健康に関する8項目について測定し、そのスコアが高いほどQOLが優れていることを示します。

  • SF-8は、大きく2つの要素、身体的健康度(PCS)と精神的健康度(MCS)とに分かれます。

    • 身体的健康度(PCS)は、次の4つの項目で構成されます。

      健康状態(GH)
      身体的問題による身体活動の障害(PF)
      身体的問題による日常業務の困難(RP)
      体の痛み(BP)

    • 精神的健康度(MCS)は、次の4つの項目で構成されます。

      元気の度合い(VT)
      身体的あるいは心理的問題による社会活動の障害(SF)
      心理的問題の程度(MH)
      心理的問題による日常活動の障害(RE)
SF-8は、身体的な要素と、精神的な要素とから、健康に関するQOLを評価する尺度です
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研究の結果

①ライフスタイル評価結果

1. 調査対象者全体の統計

調査対象人数…CD 120, UC 120, HCs 240

  • 年齢…CD 43.4±9.1, UC 43.6±9.4, HCs 46.3±18.8
  • 男性%…CD 73.3, UC 75.8, HCs 57.9(CDやUCで男性が有意に多い
  • 結婚%CD 50.0, UC 63.3, HCs 68.6(CDで結婚率が有意に低い
  • 喫煙%…CD 29.2, UC 14.2%, HCs 27.5
  • 腸切除%…CD 59.2, UC 7.5, HCs -%(CDで腸切除率が有意に高い

2. 社会経済的状況の比較

20歳未満の調査対象者、学生、主婦を除外して、社会経済的状況を比較しています。

調査対象人数…CD 102, UC 104, HCs 108

  • 年齢…CD 42.7±8.2, UC 42.8±8.7, HCs 42.3±10.4
  • 男性%…CD 81.4, UC 84.6, HCs 75.9
  • 失業率%CD 26.4, UC 13.5, HCs 5.6(失業率はCDで有意に高い
  • 年収 [10,000 yen]
    平均…CD 322.4, UC 460.5, HCs 476.6
    中央値…CD 205.5, UC 445, HCs 420(年収はCDで有意に低い

小括

CD患者さんでは、UC患者さんや健康な方と比較して、結婚率、雇用率および年収が有意に低いことが示されました

②QOL評価(SF-8)結果

調査対象人数…CD 120, UC 120, HCs 240

1. 身体的な面で

★CD患者さんは、UC患者さんや健常な方と比較して、下記のことが統計的に有意に示されました。

体を使う日常活動(歩いたり階段を昇ったりなど)をすることが身体的な理由で妨げられている(PF)

いつもの仕事(家事も含みます)をすることが身体的な理由により妨げられている(SF)

2. 精神的な面で

★CDとUC患者さんは、健常な方と比較して、下記のことが統計的に有意に示されました。

元気の度合いが低い(VT)

身体的あるいは心理的問題で家族や友人との普段の付き合いが妨げられている(SF)

心理的問題(不安を感じたり、気分が落ち込んだり、イライラしたり)に悩まされている(MH)

日常行う活動(仕事、学校、家事などの普段の行動)が心理的な理由で妨げられている(RE)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

  1. CD患者さんでは、ライフスタイルの項目で特徴的な結果が指摘されました。
  2. CDとUC患者さんは、心理的な面で多くの問題を抱えていることがわかりました。
    また、CD患者さんは、身体的な理由で、日常生活や仕事に支障をきたしていることが明らかとなりました。

筆者もCD患者ですが、体がだるくて行動するのがしんどかったり、精神的に不安で悩まされたり、日々経験しています。

この身体的な面と、精神的な面との両方の問題が、QOLの低下に影響するのですね。

この記事でご紹介した内容が、みなさまにとって何かの気づきになりますと幸いです。

ではまた。

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