今日は、便中カルプロテクチンについて、一緒にみていきたいと思います。筆者もこの記事を書くにあたって、詳しく勉強しました。筆者の医学生時代にはなかった検査なのです。医学の進歩はすごいですね。
改めてですが、炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病とを含む疾患概念です。どちらも消化管病変が問題となり、従来より内視鏡検査で活動性を把握するのが主流となっています。しかし、内視鏡検査は侵襲的であり、患者さんへの負担は大きく、頻繁にできる検査ではありません。
近年の動向としては、カプセル内視鏡に加え、CTエンテログラフィーやMRエンテログラフィーなどが、従来の内視鏡検査にかわるものとして開発されてきました。そして、今日取り上げるのは、便の検査で炎症性腸疾患の活動性がわかるという優れものです。
なぜ便中カルプロテクチンが必要とされたのか?
CRP(C-reactive protein)やESR(Erythrocyte Sedimentation Rate)、血小板数などの、炎症を反映するマーカーが、炎症性腸疾患の活動性評価に使用されています。しかし、これらは非特異的で、腸管外疾患でも異常値となる問題がありました。そこで、炎症性腸疾患に特異的な活動性を反映する指標が求められたのです。
研究の歴史
1983年の論文にさかのぼります。炎症性腸疾患患者では、白血球の糞便への排泄が、活動性と一致して増加することが示されました(Saverymuttu SH, Peters AM, Lavender JP, et al., Gut. 1983; 24: 293-9.)。また、好中球の排泄率が高いことも示されました(Saverymuttu SH, Peters AM, Lavender JP, et al., Gastroenterology. 1983; 85: 1333-9.)。これらの研究で、Saverymuttuらは塩化インジウムというラジオアイソトープを用いた方法を用いました。この方法は有力だと考えられたのですが、手法が困難で、より簡便な方法が探索されました。
そんな努力の中、発見されたのが便中カルプロテクチンの測定だったのです。なぜカルプロテクチンが候補の一つだったかというと、好中球細胞質の60%以上を占めるタンパク質であったためです。腸管に炎症があると、好中球が血液中から腸管壁を通じて腸管内に移動し、糞便中に排泄されます。好中球の測定は手間がかかるのですが、便中に排泄された好中球内のカルプロテクチンであれば容易に測定できるというわけです。
1992年には、炎症性腸疾患患者の便中カルプロテクチンは、健常者と比べて高値であることが証明されました(Røseth AG, Fagerhol MK, Aadland E, et al., Scand J Gastroenterol. 1992; 27: 793-8.)。また、潰瘍性大腸炎患者で活動性が低い患者と健常者とを比較しても、便中カルプロテクチンは有意に高値であることが示されました。そして、Røsethらは、便中カルプロテクチンは潰瘍性大腸炎の活動性の有用なマーカーだろうと結論づけています(Røseth AG , Aadland E, Jahnsen J, et al., Digestion. 1997; 58: 176-80.)。
また、2000年には、便中カルプロテクチン測定は、クローン病と過敏性腸症候群の区別に有効であろう、とも報告されています(Tibble J, Teahon K, Thjodleifsson B, et al., Gut. 2000; 47: 506-13.)。
小括
このように、海外では2000年より前から便中カルプロテクチンの臨床研究が進められ、炎症性腸疾患患者の活動性評価に有用であることが示されてきたのです。
便中カルプロテクチン検査の日本への導入
日本では、2017年6月にようやく保険適応となり、実臨床で検査を行うことができるようになりました。つい最近のことですから、あまり知られていない検査だと思います。2017年6月以降で、新たに炎症性腸疾患と診断された方、もしくは潰瘍性大腸炎の患者さんであれば、この検査を受けたことがあるかもしれません。
便中カルプロテクチン測定キット3種
ここに製品と保険適応について簡単に取り上げたいと思います。
カルプロテクチン モチダ®
測定法:サンドイッチ酵素免疫測定法(ELISA)
2017年6月 保険適応「潰瘍性大腸炎の病勢把握」
2021年2月 保険適応「炎症性腸疾患の診断補助」追加
エリア カルプロテクチン2®
測定法:蛍光酵素免疫測定法(FEIA)
2017年12月 保険適応「炎症性腸疾患の診断補助、潰瘍性大腸炎の病勢把握」
ネスコート®Cp オート
測定法:金コロイド凝集法
2020年5月 保険適応「潰瘍性大腸炎の病勢把握」
小括
適応で気づいた方がおられるかもしれませんが、2021年4月時点では、クローン病の病性把握は残念ながら認められておりません(涙)。しかし、朗報を発見しています!(この件は次回の記事にて報告します)。
まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事では便中カルプロテクチンについてまとめました。1990年台の海外での研究に始まり、30年近くたってようやく日本でも臨床で活用され始めたところでしょうか。炎症性腸疾患の患者さんにとって、この便中カルプロテクチンが活用されると、大腸内視鏡検査を受ける頻度が少なくてすむ恩恵が受けられます。非常に嬉しいですね。
次回の記事では、便中カルプロテクチンの「実際の使われ方」についてまとめていきたいと思います。ではまた。