以前に、免疫抑制薬使用中の新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種についてお話ししました。
この記事では、炎症性腸疾患(IBD)患者さんにおける主要な治療、インフリキシマブ使用中のCOVID-19ワクチン接種の効果についてお話ししたいと思います。
かなり記事が長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。
前置き
抗TNF-α抗体を使用しているIBD患者さんが、不活化ワクチンを接種すると、その効果が減弱する可能性があることが報告されています。
一方で、抗ヒトα4β7インテグリン抗体製剤であるベドリズマブ(エンタイビオ®︎)では、効果減弱が起こらないことが報告されました。
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これからご紹介する論文では、対照群として、不活化ワクチンの効果に影響を与えないと考えられるベドリズマブ使用患者さんを当てています。
IBD患者さんでのCOVID-19ワクチンの効果
疑問
IBD患者さんで、抗TNF-α抗体製剤を使用している場合、新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンは十分な効果を示すのでしょうか?
参考になる論文が、英国から2021年4月に報告されましたので共有したいと思います(Kennedy NA, Lin S, Goodhand JR, et al. Gut Published Online First: 26 April 2021.)。
インフリキシマブとCOVID-19ワクチンの効果に関する報告
研究デザイン:多施設前向き観察コホート研究
患者:2020年9月22日から2020年12月23日までの間に英国の92の病院で生物学的製剤による治療を受けた患者さん
目的:インフリキシマブもしくはベドリズマブによる治療を受けるIBD患者さんが、新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンの効果を得られるかどうかを調べるため
曝露:インフリキシマブ治療を受けた患者さん865人と、
対照:ベドリズマブ治療を受けた患者さん428人とを比較して、
主要評価項目:1回目のワクチン接種から3〜10週間後の間に抗体検査を行い、抗スパイク抗体濃度を比較した。
副次評価項目:セロコンバージョン率(抗スパイク抗体陽性化率:抗スパイク抗体濃度 15 U/mLのカットオフで定義)を比較した。
また、先行感染後のワクチン接種、もしくは2回目のワクチン接種後の抗スパイク抗体濃度を測定し比較した。
COVID-19ワクチン:ファイザー社製ワクチン(BNT162b2)とアストラゼネカ社製ワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)
主要評価項目
1回目のワクチン接種後の抗スパイク抗体濃度
1回目のワクチン接種後の抗スパイク抗体濃度(インフリキシマブ(緑色) vs ベドリズマブ(橙色))は、ファイザー社(BNT162b2)で(6.0 ± 5.9 U/mL vs 28.8 ± 5.4 U/mL, p <0.0001)およびアストラゼネカ社(ChAdOx1 nCoV-19)で(4.7 ± 4.9 U/mL vs 13.8 ± 5.9 U/mL, p <0.0001)でした(Figure 1)。
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副次評価項目
1回目のワクチン接種後のセロコンバージョン率
セロコンバージョンとは
セロコンバージョンは抗体の陽性化を意味します。
この論文では、抗スパイク抗体濃度が15 U/mL以上に上昇した場合をセロコンバージョンと定義しています。
結果
セロコンバージョン率は、インフリキシマブと免疫抑制薬(IMM)とを組み合わせた群で最低で、ファイザー社(BNT162b2)で27.1%、アストラゼネカ社(ChAdOx1 nCoV-19)で20.2%でした(Figure 4)。
セロコンバージョン率は、ベドリズマブ単剤群で最高で、ファイザー社(BNT162b2)で74.7%、アストラゼネカ社(ChAdOx1 nCoV-19)で57.3%でした。
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先行感染後のワクチン接種による抗スパイク抗体濃度
ワクチン接種前にCOVID-19に感染したIBD患者さん(One dose, prior infection)での検討です(Figure 5)。
1回目のワクチン接種による抗スパイク抗体濃度(インフリキシマブ(緑色) vs ベドリズマブ(橙色))は、ファイザー社(BNT162b2)で(191 ± 12.5 U/mL vs 1865 ± 8.0 U/mL, p <0.0001)およびアストラゼネカ社(ChAdOx1 nCoV-19)で(185 ± 9.3 U/mL vs 752 ± 12.5, p =0.046)でした。
インフリキシマブとベドリズマブとどちらの治療でも、事前に感染していないIBD患者さん(One dose, no prior infection)と比較して、ワクチン接種前にCOVID-19に感染したIBD患者さん(One dose, prior infection)では、1回目のワクチン接種後の抗スパイク抗体濃度は高くなりました。
ワクチン接種前にCOVID-19に感染したIBD患者さん(One dose, prior infection)では、1回目のワクチン接種後に良好なセロコンバージョン率がみられました。
インフリキシマブで治療された患者さんの81.7%(76/93)およびベドリズマブで治療された患者さんの97.1%(33/34)がセロコンバージョンを示しました(p =0.041)。
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2回目のワクチン接種後の抗スパイク抗体濃度
ファイザー社製ワクチン(BNT162b2)を2回受けたIBD患者さんの、抗スパイク抗体濃度を調べています(上図:Figure 5)。
インフリキシマブ(緑色)とベドリズマブ(橙色)との両方で、抗スパイク抗体濃度とセロコンバージョン率は、事前感染のない1回目ワクチン接種後(One dose, no prior infection)よりも2回目接種後(Two dose)の方が高くなりました(インフリキシマブ 6.0 ± 5.9 U/mL vs 158 ± 7.0 U/mL, p <0.0001; ベドリズマブ 28.8 ± 5.4 U/±mL vs 562 ± 11.5 U/mL, p =0.018)。
2回目のワクチン投与後のセロコンバージョン率は、インフリキシマブ治療で85%(17/20)、ベドリズマブ治療で86%(6/7)でした(p = 0.68)。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
- インフリキシマブは、ファイザー社とアストラゼネカ社の1回目接種における抗スパイク抗体濃度を低下させ、セロコンバージョン率(抗体陽性化率)は20〜30%台と低い値でした。
- COVID-19先行感染後の1回目ワクチン接種、または2回目のワクチン接種後に、ほとんどの患者さんでセロコンバージョンがみられました(81.7% と 85%)。
少し難しいですが、IBD患者さんにとって、とても貴重なエビデンスかと思われます。
みなさまのご参考になりましたら幸いです。
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