今回はクローン病と「癌」について調べてみました。二つの記事に分けて記載したいと思います。今回の記事では、「クローン病患者さんはどれくらい癌になりやすいか?」についてまとめることにします。
そもそもクローン病から癌になるの?
筆者が医学生のころは、「クローン病は癌にはならず、潰瘍性大腸炎は癌になる」と暗記した記憶がありますが、勘違いでしょうか(笑)。以前、筆者がレミケードを使用することになったお話をしました(参照:レミケードって何?、レミケード治療を受けて良かったの?)。その際に主治医から、「クローン病は癌になることがあるから注意が必要です」と言われ、とても驚いたのを覚えています。
さて、クローン病と「癌」に関する情報を集めてみました。「癌になる可能性があるので大腸内視鏡検査を定期的に受けましょう」という記載をよく見かけます。しかし、より具体的に、どれくらい癌になりやすいのかの記載はあまり見かけません。そこで、クローン病と「癌」に関して、文献を検索してみました。
クローン病と癌のリスク
ここからは論文を引用しながらまとめていきたいと思います。
大腸癌のなりやすさ
下記の引用は、世界で最も評価の高い医学雑誌の一つLancetに掲載された論文の概要です。日本のクローン病に関する資料にも、しばしば引用されています。
スウェーデンのウプサラで1983年にクローン病と診断された1655人の患者さんのコホート研究です。この集団は、1984年まで結腸直腸癌(大腸癌)の発生について追跡調査されました。結果、クローン病患者さんは、一般の方と比べて2.5倍、大腸癌になりやすいことがわかりました。また、クローン病患者さんで病変が大腸に限局している場合、一般の方と比べて5.6倍、大腸癌になりやすいことも示されています。
A cohort of 1655 patients with Crohn’s disease diagnosed during 1983 in the Uppsala health care region, Sweden, was followed up with respect to the occurrence of colorectal cancer to the end of 1984. 12 colorectal cancers were diagnosed, yielding an increased overall risk of 2·5. The relative risk was similar for males and females. Duration of follow-up did not affect risk. Relative risk for disease of the terminal ileum only was 1·0; for terminal ileum and parts of colon 3·2; and for colon alone 5·6. Patients in whom Crohn’s disease was diagnosed before age 30 with any colonic involvement at diagnosis had a higher relative risk (20·9) than those diagnosed at older ages (2·2).
Ekbom A, Adami HO, Helmick C, et al. Increased risk of large-bowel cancer in Crhon’s disease with colonic involvement. Lancet. 1990; 336: 357-9.
小括
クローン病患者さんは2.5倍大腸癌になりやすいようです。この論文は1983〜1984年のデータであり、レミケード治療がスタンダードになる前の時代です。レミケードがスタンダードになってからのデータだと、癌のなりやすさはまた異なるのかもしれませんね。
大腸癌と小腸癌のなりやすさ
次に引用するのは、クローン病患者さんを対象とした34件の研究、合計60,122人のクローン病患者さんをレビューした論文です。この論文によると、クローン病患者さんは一般の方と比べて2.4倍、大腸癌になりやすく、また28.4倍、小腸癌になりやすいと報告されています。
The relative risk of small bowel, colorectal, extraintestinal cancer, and lymphoma compared with the baseline population was 28.4 (95 percent confidence interval, 14.46-55.66), 2.4 (95 percent confidence interval, 1.56-4.36), 1.27 (95 percent confidence interval, 1.1-1.47), and 1.42 (95 percent confidence interval, 1.16-1.73), respectively.
Alexander C. von Roon, George Reese, Julian Teare, et al. The risk of cancer in patients with Crohn’s disease. Dis Colon Rectum. 2007; 50: 839-55.
小括
60,122人という膨大なサンプルのクローン病患者さんを解析した研究です。やはり大腸癌のリスクは一般の方と比較して2.5倍ほど高いというとことでしょう。
ちなみに、小腸癌のリスクが28.4倍とものすごく高いようにみえます。もともと小腸は癌ができにくい臓器です。比較する(分母となる)一般の方の小腸癌が少ないため、クローン病患者さんの小腸癌の発症が少し増えるだけでも、リスクは大きく増えてしまいます。実際のところは、クローン病患者さんでも小腸癌ができることは稀と言われます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。これらの報告から、クローン病患者さんはおよそ2.5倍、大腸癌になりやすいことがわかります。2.5倍と聞くと、確かに大腸内視鏡検査は受けた方がいいんだろうな、と思いますね。
次回の記事では、「クローン病患者さんの○○%が癌になるの?」、「日本人と欧米人とで癌のできる部位に何か特徴があるの?」についてまとめていきたいと思います。ではまた。