以前の記事で、クローン病患者さんでは、ハーフEDが寛解維持に有効であることをお話ししました。
この記事では、クローン病患者さんでは、インフリキシマブ(レミケード®︎)と経腸栄養(enteral nutrition:EN)との併用が有効ですよ、というお話をしたいと思います。
この記事は、意外と敬遠されがちな経腸栄養の重要性を、再認識するために記載しています。
インフリキシマブと経腸栄養(EN)併用の有効性
下記の2点について論文を引用しながら見ていきたいと思います。
- 併用でクローン病患者さんのインフリキシマブへの反応性を持続させる
- 併用でクローン病患者さんの寛解維持率を高める
1. インフリキシマブの反応性を持続させる
Sazukaらの2012年の報告を紹介します(Sazuka S, Katsuno T, Nakagawa T, et al., Eur J Clin Nutr. 2012; 66: 1219-23.)。
研究デザイン
研究デザイン:後ろ向き観察研究
患者:2002年10月から2010年6月の間に、千葉大学病院でインフリキシマブ(IFX)導入療法により臨床的寛解の導入に成功した、16歳以上のクローン病(CD)患者さん74人
目的:IFX維持療法におけるIFXの持続性に影響する因子を明らかにするため
曝露:経腸栄養(EN)で1日に600kcal以上摂取していた群(EN群)を
対照:経腸栄養(EN)で1日に600kcal未満を摂取していた群(コントロール群)と比較して
帰結:IFXへの持続的反応率が高まるかどうかを検討しています
IFXへの反応性の喪失の定義:クローン病活動度指数(CDAI)が150点以上、もしくは、血清C反応性タンパク質(CRP)が陽性でCDAIが70点を越えて増加した場合
結果
縦軸にIFXへの持続的反応率を、横軸に観察期間(週)を記録しています。
EN群(ENで600kcal以上を摂取)が29人、コントロール群(ENで600kcal未満を摂取)が45人でした。
経腸栄養(EN)として、成分栄養剤(エレンタール®︎)もしくは半消化態栄養剤(ラコール®︎NF)を使用していました。
下の図のように、EN群の方が、コントロール群と比較して、IFXの持続反応率が有意に高まることが示されました(P = 0.0266)。
小括
★IFX治療と600kcal/day以上の経腸栄養(EN)との併用が、CD患者さんのIFXに対する反応性を維持する可能性が示されました。
2. 寛解維持率を高める
Hiraiらの2013年の報告を紹介します(Hirai F, Ishihara H, Yada S, et al., Dig Dis Sci. 2013; 58: 1329-34.)。
研究デザイン
研究デザイン:後ろ向き観察研究
患者:2003年4月から2008年3月の間に、日本の7つの医療施設で診断され、IFX療法を開始した患者さん102人
目的:IFX維持療法における経腸栄養(EN)の併用が、CD患者さんの寛解維持に有効であるか明らかにするため
曝露:経腸栄養(EN)で1日に900kcal以上摂取していた群(EN群)と
対照:経腸栄養(EN)で1日に900kcal未満を摂取していた群(non-EN群)と比較して
(※900kcalの基準は、Takagiらの論文で示されたハーフEDの有効性を根拠としています→詳細は下記リンクをご参照ください)
クローン病では腸管への負担をあまりかけずに、十分量のエネルギーを摂取する必要があります。 ご自身のエネルギー必要量って意識したことあるでしょうか?一般の方と、クローン病の方とで、エネルギー必要量に違いはあるのでしょうか? この[…]
帰結:CD患者さんの累積寛解率が高まるかどうかを検討しています
CD患者さんの再燃の定義:CD関連入院、追加治療、IFXの投与間隔が4週間未満に短縮、CRPが1.5mg/dL以上に上昇
結果
縦軸にCD患者さんの累積寛解率を、横軸に観察期間(日)を記録しています。
EN群(ENで900kcal以上を摂取)が45人、non-EN群(ENで900kcal未満を摂取)が57人でした。
EN群では、1日に平均1,233 ± 62kcalを摂取していました。
non-EN群では、1日に平均535 ± 32kcalを摂取していました。
経腸栄養(EN)として、63%の患者さんは成分栄養剤(エレンタール®︎)を、その他の37%の患者さんは消化態栄養剤(ツインライン®︎NF)もしくは半消化態栄養剤(ラコール®︎NFなど)を使用していました。
下の図のように、EN群の方が、non-EN群と比較して、累積寛解率は有意に高いことが示されました(P = 0.009)。
小括
★IFX治療と900kcal/day以上の経腸栄養(EN)との併用が、CD患者さんの寛解維持に有用であることが示されました
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事では、インフリキシマブと経腸栄養剤1日600〜900kcal以上の併用が、クローン病患者さんのインフリキシマブへの反応性を持続させ、寛解維持率を高める、ということがわかりました。
いろいろな治療を組み合わせて、クローン病の長期寛解が目指せると嬉しいですね。
ではまた。