【最新】アザチオプリンとNUDT15遺伝子検査【副作用回避】

前回の記事では、アザチオプリンの作用と免疫抑制の機序についてまとめました。この記事では、アザチオプリンの代表的な副作用である白血球減少症についてまとめたいと思います。

スポンサーリンク

白血球減少症の頻度

アジア人は、白血球減少症を起こす頻度が高いことが知られています。

日本人では

日本人で、アザチオプリンで治療された炎症性腸疾患患者70人を対象とした研究では、3000/μl未満の白血球減少症は10.0%にみられたと報告しています(Ban H, Andoh A, Tanaka A, et al., Intern Med . 2008; 47: 1645-8.)。同様に、日本人で、アザチオプリンを使用している炎症性腸疾患患者147人を対象とした研究では、3000/μl以下の白血球減少症は15.8%にみられたと報告しています(Takatsu N, Matsui T, Murakami Y, et al., J Gastroenterol Hepatol. 2009; 24: 1258-64.)。

韓国人では

韓国で、アザチオプリンで治療された炎症性腸疾患患者286人を対象とした研究では、41.3%(286人)に白血球減少症を認めたと報告しています(Kim JH, Cheon JH, Hong SS, et al., J Clin Gastroenterol. 2010; 44: e242-8.)。

欧米人では

イングランドで、アザチオプリンを処方された記録のある潰瘍性大腸炎患者255人を対象とした研究では、白血球減少を含む骨髄抑制は7.1%にみられたと報告しています(Sood R, Ansari S, Clark T, et al., J Crohns Colitis. 2015; 9: 191-7.)。 

遺伝的なアザチオプリンの代謝力の差

TPMT

チオプリン製剤の代謝の多くの部分に関わるthioprine S-methyltransferase(TPMT)には、遺伝子多型(個体差)があることがわかっています。そしてTPMTの遺伝子型に応じて、活性の強さが変化します。

欧米人では

TPMTの活性が低いと、アザチオプリンの最終代謝物である6-thioguanine nucleotide(6-TGN)の濃度が高くなり、結果として白血球減少が起きやすくなります(Relling MV, Gardner EE, Sandborn WJ, et al., Clin Pharmacol Ther. 2011; 89: 387-91.)。

欧米では、このTPMT遺伝子型をアザチオプリン投与前に検査し、初期投与量の調整が行われています(PharmGKB: Annotation of DPWG Guideline for azathioprine and TPMT)。

日本人では

日本人の炎症性腸疾患患者さん147人を対象に、TPMT変異を調べた結果、わずか3人(2.0%)にしか変異を認めないことが明らかとなりました。また、TPMT変異がない144人のうち、3000/μl以下の白血球減少が15.8%の患者さんにみられました。

このことから、日本人ではTPMT変異とは別の機序が、白血球減少の副作用発現に関与している可能性が示唆されました(Takatsu N, Matsui T, Murakami Y, et al., J Gastroenterol Hepatol. 2009; 24: 1258-64.)。

NUDT15

韓国人では

2014年に、韓国から新たな遺伝子の関与が報告されました。NUDT15の139番目のアミノ酸がアルギニンからシステインに変化する遺伝子多型(個体差)を持つ場合、白血球減少症を高率で発症することがわかりました。

今から7年前、つい最近の発見ですね。

Here we performed an Immunochip-based 2-stage association study in 978 Korean subjects with Crohn’s disease treated with thiopurines. We identified a nonsynonymous SNP in NUDT15 (encoding p.Arg139Cys) that was strongly associated with thiopurine-induced early leukopenia (odds ratio (OR) = 35.6; P(combined) = 4.88 × 10(-94)). In Koreans, this variant demonstrated sensitivity and specificity of 89.4% and 93.2%, respectively, for thiopurine-induced early leukopenia (in comparison to 12.1% and 97.6% for TPMT variants).

Yang SK, Hong M, Baek J, et al. A common missense variant in NUDT15 confers susceptibility to thiopurine-induced leukopenia. Nat Genet. 2014; 46: 1017-20.

日本人では

日本では、アザチオプリン治療歴のある炎症性腸疾患患者142人について、NUDT15変異と有害事象の関連性が検討されました。その結果、脱毛と白血球減少症が、NUDT15変異と関連していることが示されました(Kakuta Y, Naito T, Onodera M., Pharmacogenomics J. 2016; 16: 280-5.)。

小括

アザチオプリンの代謝と副作用には、欧米ではTPMTが、日本をはじめアジア人ではNUDT15が関与することがわかりました。どちらも、変異により活性が低下していると、アザチオプリンの最終代謝産物である6-TdGTPや6-TGTPの濃度が高くなり、重篤な副作用を発症しやすくなります。

出典:国立研究開発法人日本医療研究開発機構ホームページ(https://www.amed.go.jp/news/release_20180413-01.html)
スポンサーリンク

NUDT15遺伝子検査の実用化

NUDT15の139番目のアミノ酸の遺伝した型を検出するキットとして、MEBRIGHTTM NUDT15キットが発売されています。2019年2月1日より保険適応となっています。

留意事項:本検査は、難治症の炎症性腸疾患、急性リンパ性白血病等の患者であって、チオプリン製剤の投与対象となる患者に対して、その投与の可否、投与量等を判断することを目的として、リアルタイムPCR法により測定を行った場合、当該薬剤の投与を開始するまでの間に1回を限度として算定できる(参照:MBL)。

MEBRIGHTTM NUDT15キットの検査結果と対応

出典:厚生労働省ホームページ (https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000468380.pdf)

チオプリン製剤の投与の可否あるいは服用量の決定に有用なNUDT15遺伝子多型検査が実用化された.NUDT15はチオプリンの最終活性代謝産物を代謝する酵素で,その機能を低下させるコドン139の遺伝子多型がチオプリンによる一部の副作用の原因となっている.Cys/Cys型の患者はチオプリンを継続した場合に高度の白血球減少や全脱毛が必発のため服用を回避する.またArg/Cys型の患者は用量を減量すると服用は可能であるが,適切な用量とモニタリング方法については今後の課題である.より安全にチオプリンを活用するため,新たに治療を開始する場合は,必ず事前に遺伝子検査をして治療計画を立てることが求められる.

角田洋一, 木内喜孝, 正宗淳. 炎症性腸疾患における治療前スクリーニング-NUDT15遺伝子多型測定の意義と課題-. 日本消化器病学会雑誌. 2020; 117: 195-207.

小括

アザチオプリン投与前に、MEBRIGHTTM NUDT15キットを使用することで、重篤な副作用を回避し、より安全にアザチオプリンを使用できるようになりました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。アザチオプリンの副作用を回避するために、新たな検査キットが2019年から保険適応となりました。今後、炎症性腸疾患をはじめとした疾患で導入が検討される際には、積極的に検査が行われるものと思われます。次回は、アザチオプリンと肝脾T細胞リンパ腫についてお話ししたいと思います。

アザチオプリンに関しては他にも記事がありますので、ぜひ下記リンクをご参照ください。ではまた。

リンク

関連記事

炎症性腸疾患で使用される薬剤の一つ、アザチオプリンについて取り上げたいと思います。この記事では主に、炎症性腸疾患でアザチオプリンを使用する意義についてまとめています。 アザチオプリンの歴史 アザチオプリン(参照:KEGG)は商[…]

関連記事

前回の記事では、アザチオプリンと抗TNFα抗体とを併用するメリットについてお話ししました。この記事では、アザチオプリンの作用と免疫抑制の機序について、詳しくみていきたいと思います。 アザチオプリンの代謝産物と作用 アザチオプリ[…]

関連記事

前回の記事では、アザチオプリンの投与に際して、重篤な副作用が出やすいかどうかを検査するNUDT15キットが保険適応になったことをお話ししました。この記事では、アザチオプリン使用でみられる肝脾T細胞リンパ腫についてお話ししたいと思います。 […]

スポンサーリンク
error: Content is protected !!