この記事では、クローン病患者さんにおける手術に関するデータをまとめています。
- 累積手術率
- 手術の理由
- 累積再手術率
記事の最後に、手術回避のために重要な点をまとめています。ご参考になさってください。
1. 累積手術率
日本の研究報告(1995年報告)
クローン病患者さんの累積手術率について(Iida M, Yao T, Okada M., J Gastroenterol. 1995; 30: 17-9.):
- 1973〜1988年の間
九州大学、福岡大学、および関連施設に通院したクローン病患者さん233人を追跡調査
結果… 累積手術率は、クローン病発症後から5年後で16.2%、10年後で39.1% - 1975〜1990年の間
9施設で診断されたクローン病患者さん419人を追跡調査
結果… 累積手術率は、クローン病発症後から5年後で30.3%、10年後で70.8%
海外の研究報告(2004年報告)
クローン病患者さんの腸の一部を切除する手術に関するレビュー(Wolters FL, Russel MGVM, Stockbrügger RW. Aliment Pharmacol Ther. 2004; 20: 483-96.):
- Agrezらの報告(USA)
1935-1975年の間、103人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、クローン病診断後から5年後で34%、10年後で34% - Bernellらの報告(Sweden)
1955-1989年の間、1,936人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、クローン病診断後から5年後で61%、10年後で71% - Munkholmらの報告(Denmark)
1962-1987年の間、373人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、クローン病診断後から5年後で46%、10年後で61% - Firemanらの報告(Israel)
1970-1980年の間、365人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、クローン病診断後から10年後で40%
小括
★おおよそ、クローン病における累積手術率は、5年で30-40%、10年で60-70%といったところでしょうか。
日本の研究(2015年報告)
福岡大学筑紫病院でクローン病と診断された520人の患者さんの後ろ向きコホート研究(Sato Y, Matsui T, Yano Y, et al., J Gastroenterol Hepatol. 2015; 30: 1713-9.):
結果…
- 狭窄と瘻孔は、5 年で約50%にみられる
- 累積手術率は、クローン病診断後から5年後で約30%、10年後で約50%
小括
ただし、生物学的製剤を維持的に使用し始めて間もないため、生物学的製剤の影響はみられなかったようです。
★クローン病における累積手術率は5年後で約30%、10年後で約50%ということで、これまでの研究報告とほぼ同じような結果となっています。
2. 手術の理由
日本の研究(2015年報告)
福岡大学筑紫病院でクローン病と診断された520人の患者さんの後ろ向きコホート研究(Sato Y, Matsui T, Yano Y, et al., J Gastroenterol Hepatol. 2015; 30: 1713-9.):
結果…
- 手術理由は、狭窄 57.2%、内瘻・外瘻 16.0%、膿瘍 6.1%、穿孔 2.3%、出血 2.3%
日本の研究(2018年報告)
兵庫医科大学でクローン病に対し、腸管切除術が行われた1,143例の検討(桑原隆一, 池内浩基, 皆川知洋ら., 日本消化器外科学会雑誌. 2018; 51: 671-679.):
結果…
- クローン病発症年齢の中央値は22歳、初回手術時の年齢の中央値は30歳
- 手術理由は、狭窄 48.8%、瘻孔 22.9%、穿孔 12.3%、膿瘍 11.9%、出血 2.8%、癌 1.2%
小括
3. 再手術率
海外の研究報告(2004年報告)
クローン病患者さんの腸の一部を切除する手術に関するレビュー(Wolters FL, Russel MGVM, Stockbrügger RW. Aliment Pharmacol Ther. 2004; 20: 483-96.):
- Agrezらの報告(USA)
1935-1975年の間、36人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、初回手術後から5年後で16%、10年後で28% - Shivanandaらの報告(The Netherlands)
1935-1983年の間、118人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、初回手術後から5年後で20%、10年後で25% - Munkholmらの報告(Denmark)
1962-1987年の間、210人のクローン病患者さんを対象
結果… 累積手術率は、初回手術後から5年後で12%、10年後で33%
日本の研究(2018年報告)
兵庫医科大学でクローン病に対し、腸管切除術が行われた1,143例の検討(桑原隆一, 池内浩基, 皆川知洋ら., 日本消化器外科学会雑誌. 2018; 51: 671-679.):
結果…
- 再燃による再手術を必要とした症例は50.4%で、累積再手術率は初回手術から5年後で22.2%
小括
まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事ではクローン病患者さんの手術に関するデータをまとめました。
狭窄と瘻孔は、5 年で約50%のクローン病患者さんが経験します。
そして、この狭窄と瘻孔が、手術の理由の1位と2位を占めています。
このことからも、早期の寛解導入と、寛解維持がクローン病治療では重要となるわけです。
現在、生物学的製剤が普及しています。
手術率や再手術率でみられる長期予後が、生物学的製剤の使用によって改善しているかどうか、今後の報告が期待されます。